2017年4月15日土曜日

機械の身体

どうも皆様おはようございます。
万太郎です。



専務と社長、それと私。

あまり一堂に揃うことのない3人だ。

それぞれ無言であるが、専務はそわそわし、社長はどっしりと腰をおろし、私は立ち尽くしていた。

先日専務に言われた新人が訪れる約束の時間はとうに過ぎている。

専務は腕時計をしきりに確認しては、うろうろとしている。

専務と社長を待たせるとはいい度胸だ。

忙しい二人を待ちぼうけにさせるわけにはいかないだろうと、私一人で待つ旨を伝えようとする。

その時。

遠くから轟音を響かせて何かが飛んでくる。

どうやらこちらに向かっているようだ。

その何かのフォルムが徐々に鮮明になり、私たちの上空まで来ると、ぴたりと停止し高度を下げる。

ものすごい熱風だ。

私は身を縮ませ、顔への熱風を緩和させようと両腕でひさしを作る。

そしてその腕の間から目を細め、熱風の来るほうに向ける。


その赤い者は手の甲、足の裏からジェット噴射をし、空中制御をしているようだ。

それはゆっくりと地面に降り、何事もなかったかのように辺りを見回す。



 やがて、その赤い者は私のほうに視線を向け、ゆっくりとした動作でこちらに近づく。

手や足から、体全体から耐え難い熱気を感じる。



「nice to meet you」

と、堂々とした動作で右手を差し出す。

私はそのとてつもない熱気を宿した右手に目を向ける。

こんなものを触ったら火傷をするのではないか。

約束の時間に遅れ、目の上から姿を現し、出会い頭に危険な選択肢を押し付ける。

これが、ゆとり世代、ということか。

もし、例えば社長や上司にそれを振られれば、おもむろに手を握り、アツゥーイwww、などとオーバーなリアクションとともに、おちゃらけるという選択肢もあっただろう。

だが、これは新人、しかも初対面だ。

それをする義理はなく、今後そのような、なあなあな関係になってもいけない。

しかし、その差し出した手を無碍にするのも大人のたしなみとしては正しくはないだろう。

私は胸のポケットからシャーペンを取り出し、差し出した手に握らせる。


そして、はっきりとした日本語で堂々と切り返す。

こんにちは、殲滅隊の万太郎、釣吉万太郎です。

英語でなど返すものか。

その赤い者は少し時間を置き、低い声で一語一語を確かめるように言葉を発した。

「オイド・・・ピー、拙者・・・ピー、私、ハ、星野鉄郎、デス。ヨロシクオ願イ、シマス。」

日本人、いやそうじゃない、大丈夫なのか、いや、本名であれば問題ないだろう、もうやけくそか?と様々な不安を感じ、背筋が凍った。

疑問、疑惑が心の底から湧き出し、ついに溢れかえった私は、専務や社長に一言言おうと振り返る。

しかし、そこには二人の影は見当たらない。

あの熱量だ。

人間の大人だって驚く。

社長はずいぶん離れた場所の水槽の裏に身をかがめ、専務は既に影も形もなくなっている。

私は仕方なく、日本の距離感というものをやんわり伝えるべく、 その横柄な欧米かぶれと一歩二歩距離をとり、事務所の案内に移ることにした。




PS.これが届いた時のゲテモノでも見るかのような目で私を見た妻の顔は、永遠に忘れないだろう。

もちろんこのブログのことはまだ内緒だ。

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