どうも皆様おはようございます。
万太郎です。
昨日の続き
護衛対象がイソメであったとしても、やはり煙幕はあった方がいいであろう。
単に海水を入れて粉を混ぜる作業が楽しいからではなく、もちろん、海に混ぜたものを投げ入れるのが楽しいから、というわけでもない。
あくまで、イソメの身を守るための煙幕である。
イソメを2匹、例の仕掛けにかける。
イソメの感覚の何たる久しいことか。
まだ寒い、雨も降った、食いも落ちていることであろうと考え、イソメ一本掛けでいく。
イソメを海に投げ込み、煙幕を張る。
ウキの傍に煙幕を投げ入れることができると、それだけで護衛がうまくいっている気になれる。
さすがに4月になってくると、釣り人も多い。
多勢で守らなければ、海老もイソメも被害があり過ぎてしまうので、大きな組織としても護衛隊員を多数派遣してきているのであろう。
そうは言っても隣との間隔は約20mだ。
被害が出ないと思えば、棚を変え、投げる位置を変える。
今日はやけに水鳥が接岸し、何度も水の中に潜り込んでいる。
そんな水鳥達の様子を眺めていると、視界の左側に長い釣竿が写りこむ。
あれは、タイコリール。
いわゆる検針屋と呼ばれる方々だ。
私も検針の部署に行くかもしれないので、あまりこのような場で言うのは躊躇われるのだが、私は彼らが苦手だ。
釣り場の端から端までを巡回し、しっかりとした護衛がなされているか、あの長い竿にブラクリと呼ばれる仕掛を付けて調査するのだ。
もし、護衛がしっかりなされていなく、足元に魚の侵入を許していると、あの竿が反応するはず。
隣の釣座の方の検針が終わり、次は私だ。
私の周囲に釣竿を落とし、私の足元にも釣竿を落とす。
ゆっくりと釣り糸が流れていくのが見える。
私は願うような気持ちでその竿先を見つめる。
検針屋が釣竿を戻す。
私は目を閉じ、密かに安堵のため息を漏らす。
安心したのも束の間、私は後ろに人の気配を感じ、振り向くと別の検針屋が立っていた。
二人目?同時調査?
今度は右から別の検針屋が私の足元に釣竿を落とす。
煙幕も焚いている。
護衛に抜かりはない。
しかし、世の中に完全な護衛というのは存在しない。
右の検針屋の釣竿が空中に持ち上げられた。
異常はなかったものと思われる。
私は緊張の糸を切らせてしまう。
すると、後ろで検針屋の二人が雑談を始めた。
顔見知りだったということだ。
後ろで雑談が続く。
私の護衛についてではないだろう。
まさか彼らは大きな組織の手のものか?
まさかだ。
その後、結局何事もなく時間が過ぎる。
検針屋二人の無言の合格をもらったと言っても過言ではないのだ。
しかし・・・。
検針屋二人が出会って、雑談が始まったお陰で一点、竿を落とさなかったポイントがあった。
気になって、目を凝らすと小指ほどの魚の群れが見える。
結局、傷一つなく守りぬけたイソメをそのポイントにゆっくり降ろしてみる。
しかし、足元に仕掛を落とすと根掛かりがしやすく、仕掛全体を失う可能性がとても高くなる。
やはり、根掛りしてしまったようだ。
長い竿を右へ、左へ傾け、根掛りを解消しようとする。
ふっと仕掛けが抜け、イソメを空中に上げる。
すると、深い位置にいたはずのイソメがどうも短くなっている気がする。
イソメにやられたのか問いただすと、階段で転んだだけで問題ないと顔をゆがめて言っている様だ。
そこにはイソメの自尊心もあるのかもしれない。
しつこく追求するのは辞めにした。
よし、今日も納竿だ。
竿や仕掛けを一通り片付け、車に向かう途中。
猫か?
こちらを見ている。
じっと動かないが、なにやら、うちの社長を知っている素振りだ。
猫が社長を…?
世の中不思議なことがたくさんある。
とりあえず、戻ったら報告しておこう。
今更眠くなってきた目をこすりながら車に乗り込む。
音楽プレーヤーの電源を入れると、私の被害0を祝うかのようにアップテンポで陽気な曲が流れ出した。
本日の被害
イソメ 0
魚の上陸 0
うちリリース 0
検針屋お墨付きボウズ
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