まだ16歳(大嘘)、万太郎です。
先週のイソメがまだ残っている。
一匹のイソメが出陣の要請を願い出た。
だが、私は首になった身、行きたいのはやまやまだが、こそこそと抜け出してばれでもしたら、実に事だ。
だが、イソメの情熱は止まらなかった。
私は覚悟を決め、近くの川であれば、訓練にもなり、良いであろう、と判断した。
こそこそと準備をし、一通りのものが整ったところで、1階の廊下を通り、外へと向かう。
1階は社長の部屋があり、何か物音でも立てればすぐに気づかれてしまう。
しかし。
私は床に落ちていた缶を蹴ってしまい、カラカラと大きな音を立てる。
しまった、絶望的だ。
素直に謝ろうと、1階の社長室へ向かう。
社長室のドアを開けると、まるで何事もなかったかのように寝ている、振りをしてくれているのだろう。
これは、暗黙の行ってこい、という社長の優しさに他なるまい。
私は背中で社長に礼を言い、イソメを持って、旧中川に向かうのであった。
旧中川はもう少し暖かい時期であれば、ハゼが大量に沸いている。
また、ルアーでクロダイを釣り上げている方もお見受けしたことがある。
なかなか見どころのある釣り場といって良いであろう。
11月も半ばを過ぎ、この時期の旧中川はどのようになっているであろう。
片や、別の場所であるが、サイズ10センチを超える落ちハゼが入れ食い、とのうわさも聞いている。
旧中川に到着し、期待に胸を弾ませながら釣りの準備をする。
軽い重りを付け、仕掛けを沈めてみる。
ハゼの生命反応がない。
ハゼ的な生命反応はないのだが、植物的には大きな生命反応だ。
というのも、藻がびっしりなのだ。
少し仕掛けで誘いを掛けようものなら、仕掛け中に藻が乗って返ってくる。
これは、実はイソメ護衛術、藻隠れという正式な技術ではあるものの、地形を利用するため、普段はあまり使用しないものである。
藻が少なそうなところを移動し、川下の方へ移動していると、一つ川の中心の方へ先に出た飛び石を見つける。
この飛び石に乗れば、杭の向こう側に仕掛けを投げることができそうだ。
私は軽快に飛び石に飛び乗り、バランスを取り、杭の向こう側に仕掛けを投げ入れる。
ハゼはなかなか見当たらないが、ボラの子であろうと思われる群れは頻繁に見ることができた。
寒くなってきたため、魚は深いところへ移動にしているのであろう。
仕掛けを何度か杭の向こう側へ投げ入れていると、竿に手ごたえを感じた。
まずい、私は竿を操作し、リールを巻き、イソメの護衛に集中する。
と、私はバランスを崩し、飛び石から川へざぶんと音を立てて落ちてしまう。
すぐに立ち上がり、リールを巻く。
イソメは?無事か。
仕掛けを手元まで戻すと、イソメはしっかりと生きていた。
私はイソメに声をかける。
「危なかった、イソ、お前の回避技術が無ければやられていた。」
イソメも息を切らしながら言う。
「いえいえ、万太郎さんの腕ですよ、ありがとうございます。」
「ふふ、イソ、お前顔が藻と泥で真っ黒じゃないか。」
「何を言っているんです、万太郎さんだって、藻だらけですよ。」
「そうか、はっはっはっは。」
「ははははは。」
私たちはお互いの雄姿を認め合い、広げた釣り道具を片付けた。
そして、私はイソメと肩を組みながら、夕日に背を向け、家路につくのであった。
いやあ、青春ですね。釣りをしている人はまだ結構いましたよ。
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