風邪の引き始め万太郎です。
パンイチで眠るのに少々寒気を覚え始めた昨今、就寝前に箪笥を荒らしていると、おそらく妻の物であろう、程度の良い長そでを見つけた。
その長袖を身に着け、さらに防寒にスパッツを履き、釣りの準備などをしていた。
ちょうどこんな格好だ。
すると社長がもそもそと食事をしに来た。
もそもそとカリカリを食べているだけのように見えたが、実は違う。
なんか、女子力上がってね?と言っている様だ。
女子力。
私は女子ではない。
男性だ。
更に言うとおっさんである。
しかしここで一つ私に女子力というファクターが加わった。
これを上げていかないわけにはいくまい。
という事を踏まえての今回の釣りとなった。
9月が終わり10月を迎え、蝉の声が遠ざかり、鈴虫の声が気になりだす頃合い。
徐々に昼の時間が短くなり、太陽が息をひそめ、月や星が空に目立ち我が物顔をする。
私の釣りも今までと同じ時間からの始まりでも空はまだ暗い。
こんな星々を写真に撮ってしまうあたり、私の女子力は相当高いと言えよう。
そしてゲートブリッジ。
我ながら相当な女子力だ。
ハロウィン浮きは前回壊してしまったままなので、普通の電池の入る棒浮きを仕掛けにセットし、暗い海に投げ入れる。
ほどなくして、イソメに反応がある。
カイズだ。
これははっきり言って女子力とは程遠い魚である。
「格好いい」のだ。
無数の矢を受けても仁王立ちしていた武蔵坊弁慶でも、触った時に痛がったと言われるぴっしり尖った背びれ(※1)。
黒という色が先が黒鯛という魚が先かという誰もが行きつく哲学を生み出した、黒光りした鱗(※2)。
歌舞伎役者の「見栄」はこの目から生まれたと言われ、2代目市川團十郎は父を超えるためこの魚を何度も何度も釣ったという、ぎょろりとした目(※3)。
すべての釣り人に「引き」の魅力を教えてくれる立派な尾びれ、この尾びれの動きはバサロで金メダルを獲得したかの鈴木大地氏が参考にしたと言われている(※4)。
という、男の中の男、男性フェロモンびっしりの魚と言えよう。
だが違う。
今は女子力だ。
時代は女子力を求めている。
私は再度仕掛けを海に投げ入れた。
続いてやってきたのはこの子だ。
そう、今日は違うのだ。
更に。
私の女子力がこの魚を引き付けるのだろうか。
女子力が高い漢(おとこ)というのも罪なものだ。
私は少々女子力を押さえることにした。
ポケットに秘めていた黒鯛うっふんプロマイドを背負っていたカバンに移し、そのかばんを後ろの岩場に置く。
自分の気がみるみる小さくなっていくのが分かる。
空は徐々に明るくなり、魚も落ち着いてきたようだ。
ぼうっと浮きを眺める時間が続く。
これはこれでいいものだ。
本日は例のミニオン浮きを使用してみる。
と、そんな折。
このはっきりとした縞模様。
こんな縞模様を履きこなせるのは、完全に女子だ。
はっきりとしたコントラストは自然界において目立つため以外の何物でもない(※5)。
要するに自分に相当の自信があり、相応の容姿を持たなければ成しえない業だ。
私は自分の女子力に大きなダメージを受けた。
目眩を感じたものの、まだだ。
まだ戦える。
女子力はまだある。
力尽きるまで。
用心深く海中を探っていく。
もうそろそろ時間だ。
その時。
ゆっくりとミニオンが沈み込んでゆく。
自然体では浮いているはずのものがゆっくりと。
正体はこいつだった。
かわいい。
とてもかわいいやつだ。
特にこのクチブトと言われる奴はかわいい。
少し間の抜けたふんわりしたムナビレ、マイメロディーの耳はこのヒレから発想を受けたというのは関係者なら周知の事実だ(※6)。
セーラームーンの作者武内直子氏はこの魚の目を元にキャラクターを描いたという、少女漫画のお手本のような大きな目(※7)。
まるで思春期を終えた後の女子特有のふっくらとした体つき。
この魚は…、かなりの女子力だ。
メジナは漢字で女持納と書く(※8)。
こんな魚に勝てるわけがない。
私の女子力は完全に底をついた。
息も絶え絶えに釣具を片付けた。
女子力を失い、干からび、メガネはVの時に曲がり、シャツもだらしなくはみ出している。
私は再戦を約束し、やっとの思いで車に乗り込み、若洲海浜公園を後にした。
【MEIKOUSYA/明光社】ステッカー カット石鯛2 大 C-27 030526 シール
(※1~※8)ウソです。すみません。
サカナオッキイ。ワタシウレシイ。
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