どうも皆様おはようございます。
万太郎です。
7月2日。
小潮。
干潮5:39。
昨日の雨の影響も有り、湿度がとても高い。
気温もそれなりにあるので少し動いただけで汗が出てくる。
空は白い雲に覆われ、今にも泣き出しそうだ。
そして小潮フィールド。
こんな日はさすがに釣り人もいまい。
どこで釣座をに着こうか、などと期待を寄せていると、予想に反してぽつぽつと人がいて釣座が確保しにくい。
奥の方まで行ってみると、空いている場所を見つけたので、荷物を降ろす。
釣具を広げ、実験的なものや、海老、ジップロックに入れよく揉み混んで混ぜ合わせた撒き餌を足元に置く。
今は干潮。
潮が引いていて足場のいい場所がどうにも確保できない。
また、潮が引いた場所にはフナ虫が我が物顔で陣取っている。
それにしても、とんでもない数のフナ虫だ。
私はそれを気にしないようにしながら、実験的なものも含めて、竿を替えたり、仕掛けを替えたりしながら護衛を続ける。
カップホルダーにものさし竿30cmを試してみる。
手元で落ちたラインが足元の岩にくっついたイガイに引っかかって釣りにならない。
堤防では良くても人口磯では厳しすぎることを確認し、通所の竿リールに戻す。
ウキに集中していると靴の甲にもフナ虫が乗ってくる。
もちろん、こぼしたマキエには一瞬で群がってくる。
まるで文字通り私の護衛の足を引っ張るかのように。
だが私もそれで気を緩めるわけにも行かない。
海老の命が掛かっている。
海老は心細く、一匹で海を漂っているはずだ。
それに比べれば、こんなフナ虫など。
しかし、あまりに多いフナ虫だ。
私はフナ虫に問う。
なぜ私の邪魔をする。
フナ虫は答える。
最初からいたのは我らだ。
あとから来ておいて、邪魔だのどけだの言われる筋合いはない。
そもそも、我らはフナ王様のもとに行動している。
我らに何か言おうとも無駄なだけだ。
私は初めて耳にしたフナ王という存在を確認した。
フナ虫は答える。
フナ王様は釣果をつかさどる王だ。
フナ王様のおかげでわれわれはここまで繁栄できた。
フナ王様は貴様のようなケチな釣り人に見向きもしないだろう。
たくさんのフナ虫があちらこちらで私に対して冷たい視線を向け、罵倒の言葉を口にする。
そのような恐ろしい王が若洲にいたとは。
これではやっかいだ。
そんなやり取りをフナ虫たちとしていると、奥から色の違うフナ虫が現れた。
フナ虫たちは静かに道を譲り、群れの中に一筋の道ができる。
まさか、こいつがフナ王か。
フナ王と思われるフナ虫は何も言わず、静かにそこにたたずんでいる。
私がフナ王やその周りのフナ虫に釣座の交渉のため、声を荒げてもフナ王は何も言わない。
しばらくすると、フナ王は何かにはじかれたように海の方を、厳密には私のウキの方に向き直り、目を見開いている。
私の視界の端でウキが沈み込む。
しまった。
魚の気配だ。
私は即座に海老に声をかけ、退避の指示を出す。
しかし遅かった。
やられる、そう思った。
その時。
一陣の風が吹いた。
人口磯の奥からぞくりとする冷たい気配を感じた。
刃物を首筋にあてられた感じだ。
その気配を感じると同時に、魚の気配がすーっと消えていく。
それは一瞬のことだったと思うのだが、とても長く、時間を引き延ばされたような、そんな一瞬に思えた。
助かった、のか。
助けられたのか。
今のが、フナ王の仕業だというのだろうか。
魚の気配が消えると、永遠に思われるほどに引き延ばされた時間は、不思議な浮遊感とともに元に戻っていった。
気温は変わっていないはずなのだが、額から止め処ない汗が出る。
しばし呆然と、浮き上がってきた棒ウキを眺めた。
ようやく冷静になった私はリールを巻き仕掛けを手元に寄せ、海老の無事を確認した。
助かった。
と、足元を見ると、風によって撒き餌の入ったジップロックが横たわっていた。
そして、色の違うフナ虫が撒き餌を大量にかついで逃げ去る後姿を唖然と見つめるのだった。
私はわずかに残った撒き餌を適当に撒き、適当に護衛をして納竿とした。
隣の方はメジナ一匹。私はいんちきフナ王ボーズ。