万太郎です。
朝、5時。
まだ堤防が開く時間では無い。
私は堤防への道を左に折れて、人口磯へ向かった。
理由はいくつかあったが、このくらいの時期になると、魚の食い気とともに人けも無くなってくる。
であれば、人口磯だ。
イソメの護衛任務を解かれて以来久しいが、私は戻ってきた。
戻ってきた理由の一つが堤防での足元カサゴ事件に由来する。
堤防で何度もやられた私は改めて、人口磯での修行を必要とした。
昨日上州屋でいそめをそそくさと買い、荷物に紛れ込ませる。
そして狙うは。
足元の、岩の際だ。
根がかりも多いことが予想されるので前日、仕掛けを多めに作成する。
私は日もまだ昇らぬ暗いうちに準備を始め、目印にLEDの浮きを装着した。
足元の岩と岩の間にそっと仕掛けを沈める。
この景色も久しぶりである、と、感慨深い感情に浸ってしまった。
もちろん魚がそんな隙を見逃すはずがなかった。
カイズ。
この魚とも久しぶりの対面である。
なんでも食らうこの黒鯛は今年かなり増えて牡蠣やら海藻やらに被害をもたらしたとの話を聞いた。
そして、今回も私のイソメに被害を出してしまった。
私はやられたイソメについて思いを馳せながらもう一度足元に仕掛けを落とした。
特に浮きに反応は見られなかったが、嫌な予感がし、仕掛けをあげようとする。
なにか、何がついている。
重い……。
カサゴ……?
このサイズは……。
暗くてブレてたので↓。
やはり、暗がり、LEDの浮き、久しぶりの人口磯ということもあり、イソメ被害は増えつつあった。
私は少し考えた後、空も明るくなってきたことも考慮に入れ、LEDの浮きを取り外し、自ら作成した浮きに変更した。
この浮きは私が念を注入させるため三日三晩天日干しの後、陰干しをさらに三日三晩、その後ふた月にわたって箱に入れて熟成させたものである。
この浮きにした途端、魚からのイソメ被害は激減した。
だが、根がかりの多いこの場所。
根がかることは多いものの、少し竿を振ると根掛かりは解消できた。
だが、仕掛けが戻ってくると、いそめだけ消えている。
これは、明らかにおかしい。
私は人差し指と親指を咥え、口笛を鳴らす。
昔ながらの旧友であるイソメ、イソハチが駆けつける。
イソハチは身長もあり、がっしりしていて目鼻立ちもスッキリし、髪型は常に七三に分けた真面目で、それでいてユーモアも知識もある、冷静な熱血漢、とでも言うべき魅力のあるイソメである。
私は今の奇妙な状況を伝える。
そして、状況を把握し、必ず戻って欲しい旨を伝える。
イソハチは生意気そうに鼻を鳴らし、親指を立て、自ら仕掛けに体を括り付けた。
野暮なことは言うまい。
私は仕掛けを先程の場所に投げ入れる。
イソハチとは旧知の中だ。
奴のすることはだいたい把握してる。
そのイソハチが、いつの間にかに、そして、私の認識を超えた時間に……。
やはり同じように姿を消す。
私は困惑し、体が固まる。
そのままリールを引くことも出来ぬまま、竿を揺らしイソハチの状況を追う。
イソハチの行方が分からなくなってから、いくばくか時間が経った。
すると。
ボラ……?
ボラが私の浮きを襲っている。
イソメ達がいた時はこのような事態にはならなかった
まさか、イソメ達は私の浮きを守るために自ら針から手を離し、ボラの囮になったというのか。
「イソハチ。イソハチーー!」
私は迂闊であった自分の心の奥から声を絞り出し、名前を叫んだ。
「イソハチ……。」
悔いの残ることとなってしまったが、この後は、大きな被害もなく、、事を終えた。
納竿。
書きながら寝てました。ぐー。
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