どうも皆様おはようございます。
万太郎です。
護衛は相変わらず完璧だ。
そんな私の護衛の腕を見込んでか、沖縄に出向要請が出た。
7月23日、大潮、満潮6:00、干潮12:00。
家族をホテルのプールに残し、反対を押し切って名護漁港に向かった。
一人レンタカーを運転していると、後ろの座席がごそごそという。
私は驚きと恐怖でブレーキを踏み、停車ランプをつけ、後ろを振り向く。
そこには妻がいた。
子供たちは一緒に来ていた祖父母に預けたと言う。
一言で言えば、自分も釣りてえ、と言う事らしい。
馬鹿な。
釣りは知識と経験だ。
こんなところに女子供が出てきてはいけない。
私は彼女を説得する為に、延々と沖縄での釣りの危険について話した。
ここは沖縄だ、いつもと勝手が違いすぎる、経験の積んだ私だからこそなんとかなるのだ、魚の数、大きさだっていつもの場所とは明らかに違うだろう、ソーキ蕎麦はうまいなあ、あとゴーヤも忘れてはいけない、東京で飲む泡盛とは明らかに違う、だが、昨日の海鮮丼は個人的にウニが入ってなくて少し残念だった、シークワーサーの缶チュウハイはお土産に決定だ、それに、名護漁港と3回言ってみて欲しい、なごぎょこう、なぎょご・・・、そう、噛むのだ・・・
仕掛け一揃えは東京から持ち込み、釣竿はフィッシングステップという24時間営業の釣具屋でレンタルすることとした。
その釣具屋でイソメを調達しようとするも、アオイソメなるものはこの地にはないと言う。
赤イソメ。
初めて目にするものだ。
今回はこいつの護衛をすることとなる。
簡易的なサビキえさも一袋購入した。
名護漁港はそこから車で一分二分だ。。
漁港に着いて、テラスに出る。
柵もあり、完璧な足場もあり、まさに釣りにはうってつけの場所だ。
そして、海の底まで見える透明度。
何よりも驚いたのが魚の数だ。
私は恐れおののき、そのまま踵を返そうかと思ったほどだ。
仕掛けはウキの下にサビキ仕掛けをつけ、その下に本命のメジナ針をつける。
サビキ餌を投げ込み、惑わせ、メジナ針でイソメを防衛する寸法だ。
仕掛けを投入すると、それだけで小さな魚がイソメに群がってくる。
つつかれるイソメ。
ある程度の棚まで仕掛けが降りた事を確認すると、アミコマセを撒く。
小さな魚が全力で集まってくる。
仕掛けを投入し、15分ほどで私のイソメがやられる。
食ってきた魚はオジサンと呼ばれているものだ。
しかし不思議と、食われた赤イソメが笑っている。
そして、手元で待機している赤イソメたちも手を叩いて笑っている。
陸に上げられたオジサンもなぜか笑っている。
右手の橋では地元の中学生くらいだろうか、海に飛び込んで遊んでいる。
左手ではシュノーケルをやっている子供たちもいる。
ここは漁港だというのに、だ。
ここではいつもの常識が完全にひっくり返っている。
食われようが、食おうが、イソメも魚も人間も。
この海のように、空のように境界線等持たず、みんな笑いあって生きているのかもしれない。
私は悟りを開き、そこに真実を垣間見た。
空(くう)だ。
そう思って仕掛けを投げ込むと。
ふと、腕時計を見やると随分な時間だ。
時間が経つのが早い。
もうそろそろ戻らなければ、と妻に伝えると、何か根がかっている様だと言う。
少し移動をして竿を強めに立ててみることを提案する。
どうやら何か魚がくっついているらしい。
外野の赤イソメから大歓声が上がる。
不思議な場所だ。
しかし、随分と大きな魚らしく、上げていいかどうかわからないと妻が言う。
私は妻から釣竿を預ると、引きを試してみた。
なるほど、なかなかのサイズだ。
しかしこの大きさであれば引っこ抜ける。
私は妻に大丈夫、力は要らない、釣りは知識と経験だ。
と静かに言い放つ。
そして・・・。
ぶちん・・・。
背中にきれいな空からの、沖縄の強いの日差し、妻の冷たい視線を浴びながら釣竿を片付けた。
フィッシングステップに釣竿を返却に行き、手続きをした。
後ろからラグビーでもやっていそうな強面の男二人がクーラーボックスを前後で持ち、店員の前に音を立てて置く。
中からは60cmは超えるだろう、魚が2匹、3匹顔を覗かせた。
帰りの車中で妻の罵声が止まらなくなった。
自分の小さいのは調子よく釣っておいて、ひとの魚は逃がしたのか、だいたいあんたは、毎週のように釣りに行っている癖に、その癖何も釣ってこないで、何を偉そうに知識だ経験だだの、大体釣りの準備はしっかりするくせに、服は脱ぎっぱなし、クローゼットは開けっ放し、机の上は汚い、洗濯物の干し方は雑、魚の処理をした後は散らかしっぱなし・・・、
私の心は空(むな)しさでいっぱいになった。
お土産に買ったポスター。
1000円也。